ECM Cinema Dino Saluzzi Anja Lechner 'El Encuentro: A film for bandoneon and violoncello' (2012)

ECM Cinema Dino Saluzzi Anja Lechner ‘El Encuentro: A film for bandoneon and violoncello’ (2012)

Dino Saluzzi Anja Lechner 'El Encuentro: A film for bandoneon and violoncello' (2012)
Dino Saluzzi Anja Lechner ‘El Encuentro: A film for bandoneon and violoncello’ (2012)

・Review
Dino Saluzzi (ディノ・サルージ)とAnja Lechner出演したDVD。タイトルはEL ENCUENTRO、スペイン語で「出会い」を意味する言葉。それはまさにDino SaluzziとAnja Lechnerの出会いであり、Dino SaluzziとGeorge Gruntsの出会いであり、Anja LechnerとTigran Mansurianの出会いであり、タンゴと西洋音楽の出会いであり、各々のプレイヤーの楽器との出会いであり、互いの異文化との出会いを示唆していると言える。

EL ENCUENTROという言葉は広く取れるが故に、様々な解釈ができるが、おそらく上に書いたその全てだ。そして本作品と私たちの出会いでもある。以下は作品の流れである。

・SALTA ARGENTINA
これは、Dino Saluzziの生まれた地である。そこでAnja Lechnerは次のように語る。彼女の音楽観だ。

Playing music means speaking a language that everyone can understand. music is a world in which all emotions exsit. Music can heal and charm people. It can catapult you into the deepest of abysses. Music can do all of that.
音楽を演奏することは、皆が理解できる言語で語るようなもの。音楽は全ての感情が存在できる1つの世界なの。人々を癒し、勇気づけることができるし、底知れない深淵に放り込む事もできる。音楽にはそれら全てができるの。

わたしは、音楽家はその音楽で持って語るべきだと考えている一方、背後にある思想を知りたいと思っでもいる。あるいは音楽で十分に語り得ている人の考えをさらに言葉で聞けたら音楽家の奏でる音の一端に触れているようなものなのかもしれない。本作品においては、特に心地よく彼らのインタビューが響くのは彼らの音が好きだからに他ならないのであろう。

・Munchen,Germany
場面は変わり、Anja Lechnerが旅の重要性とその価値について語る。

・Yervan, Armenia
アルメニアに移り、Anja LechnerがTigran Mansurianを訪れる。Anja LechnerがMansurianの目の前で演奏する。そこでニュアンスについての確認し、曲がどこから来たのかをを尋ね、棋譜された音楽を深めるプロセスの一部を垣間見る。そしていかにMansurianが素晴らしい作曲家かを話す。それが故か、アルメニアはアルゼンチンに次いで最も重要な国、というAnja Lechnerの発言を拾うことができる。

・Basel, Swiss
Dino Saluzziのパートに移る。バンドリーダーのピアニストGeorge Gruntsとともに、 Dino Saluzziがリハーサルを行うシーン。家族を養うために、経済的苦しい部分があり、アルゼンチンを離れた、というDino Saluzziの独白がある。

ここには、ドイツで正統な音楽教育を経たチェロという西洋楽器のプレイヤーと、アルゼンチンの土着の(あるいは路上、飲み屋の)楽器であるバンドネオンという楽器の差をほのかに感じさせる。

・Yerevan, Armenia
再びAnja Lechnerのパートに。Levon Eskenianmが登場。Anja Lechnerが旅の魅力、異文化交流を語る。異文化への興味、すなわち異なるものとの対話による喜びを、彼女は感じている。かなりオープンマインデッドな人物であり、好感が持てるし、彼女の演奏における表現の幅広さを形作っているように思える。

・Dino Saluzziへのインタビュー
バンドネオンへの思いについて語る。その思いは胸を打つ。

An instrument is almost an extension of my body. I can’t coceive of life without the bandneon. It doesn’t raise its voice, it only speak with calmness, simplicity and directness.

All of the words are written here.
All of the thoughts are here.
All of the difficult equations are here.

You only have to serve the bandneon and understand that you’re letting the human experience pass through other channels.

バンドネオンは体の一部であり、ない人生は考えられない。バンドネオンはがなり立てはせずに、穏やかに、わかりやすく、そしてダイレクトに語りかけてくれる楽器。

全ての言葉、思考、難解な方程式はバンドネオンの中にある。

ただバンドネオンに仕えること。そして自分の経験を、他者や楽器を通じて、表現していることを理解しなければならない。

・Anja Lechnerへのインタビュー
ここには葛藤と音楽に対する深い愛情が交錯しているように見えるが、彼女はやはり音楽の人なのだ、と理解できる。

Music is the most important thing in my life, but sometimes I think: there are more important things in life: Life itself. I try to convince myself: ‘No, personal relationships and family are most important.’ But to be honest, it’s music. Thank goodness it’s so intense. It entails so much, all the trip, etc., that it replaces so much things that you also miss due to it. Musicians are alone a lot of time.Practcing, traveling,… It’s paradoxical: On the other hand, you’re alone, but thanks to the music, you’re not really alone.

音楽は人生で最も重要なものだけど時々、人生そのものが最も重要なものだと思う時がある。自分自身をこう説き伏せる「音楽ではなく、人間関係や家族が1番重要だ」。でも本音を言うと最も大切なものは音楽なの。それはとても強烈な想い。音楽の為に失ったものに取って代わり、おのずと旅やなにやら様々なものが付きまとう。多くの時間、音楽家は孤独なの、練習、移動。でも音楽の為に孤独である一方、音楽のお陰で孤独ではないという矛盾があるのよ。

・Triest, Italy
パーカッショニストのU.T.Gandhi、シンガーのAlessandra Francoを含めたクァルテットの素晴らしいライブの一場面。心底楽しそうなプレイヤーたちの笑顔が、印象的だ。求道的な彼らにとって、他者と共同で音楽を強度の高い次元で創り上げることが喜びでもあることが感じられる。

・Amsterdam, Netherland
オーケストラとともにコンサート。指揮者はJules Buckley。大変美しい曲で本作は終わりを迎える。
2人の音楽家が、いくつもの国を超え、亜文化に触れ、音楽家達出会う記録はまた、彼らの奏でる音と同様に大変美しいものであった。邦訳はないが、平易な英語が理解できれば十分に理解できる作品だ。是非多くの人に見てもらいたい作品であることは間違いない。私にとって1番の収穫はDino SaluzziとAnja Lechner2人の人生観に触れることができたこと。なぜ私が彼らの音に惹かれてやまないのか、それがよくわかった。

・Catalogue
ECM Cinema Dino Saluzzi Anja Lechner ‘El Encuentro: A film for bandoneon and violoncello’ (2012)

・Trailer

・Personnel
Dino Saluzzi Bandoneon
Anja Lechner Violoncello
Norbert Wiedmer Director
Enrique Ros Director


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