Lars Müller Publishers ‘Sleeves of Desire – A COVER STORY -‘ (1996)

Lars Müller 'SLEEVES OF DESIRE' (1996)
Lars Müller Publishers ‘Sleeves of Desire – A COVER STORY -‘ (1996)

・Review

Records (ECMレコード)創立25周年を記念して出版された360ページに及ぶアートワーク集。 デザイナーはB&B ・Wojirsch。Burkhart(ブルクハルト)とBarbara(バーバラ) 夫妻によるデザインが中心。作品によってBarbara(バーバラ)の記載しかないのは、夫であるBurkhart(ブルクハルト)が亡くなっているためだ。なおカメラマン兼グラフィックデザイナーはDieter Rehm(ディータ・レーム)の作品が多数。中にはのちにメインデザイナーとなるSascha Kleis作品もある。Edward Vesala「Sound & Fury」や「Ode To The Death Of Jazz」(P.150,151)などだ。
また作品に応じて様々な写真家の写真が採用されていることも確認ができる。Klaus Knaup(P.220)、Franco Fontana(P.221)、 Jan Jedlicka(P.237)などなど、挙げればきりがないが。まず音楽としての作品の目指すところに応じて、必要なイメージを膨大なサンプルから絞り込んでいく過程が想像できる。
目次
・Along the Margins of Murmuring by Peter Kemper P.7
・The Audible Landscape by Peter Rüedi P.27
・It is the second sight that counts by Lars Müller P.45
・Sleeves of Desire P.53
・Looking at the Cover by Steve Lake P.253
・Catalogue P.265
・Index P.356
それぞれ、英語そしてドイツ語が併記されていて英語のニュアンスで零れ落ちるものを原文で確認することができ大変有難い。テキストを書いている人はそれぞれ以下のようなプロフィールだ。
執筆者
・Peter Kemper
1950年生まれ、のドイツ人作家。音楽家(John Lennon, Jimi Hendrix等)の伝記なども執筆している。
・Peter Rüedi
1943年、スイス、バーゼル生まれ。ジャズジャーナリストであり、演劇カンパニーにおいて戯曲のリサーチや作品制作に関わる仕事もしている。
現在調査中。
・Lars Müller Lars Müller Publishers
1955年、ノルウェーはオスロ生まれ。1983年にLars Müller Publishers(ラース・ミュラー・パブリッシャーズ)を設立し、スイス、バーデンを拠点とする出版社。
・Steve Lake
1951年、ロンドン生まれ。イギリスのロック紙「メロディメーカー」勤務を経て、1978年にライターとしてECMに入社。以後プロデュースも務める。
・内容について
重要なキーワードは多々あるが、本書のタイトルに従い、アートワークのデザインに携わるBarbara Wojirschについて、彼女が目指しているもの、とそれを裏付ける発言が引用されているので、抜き出してみたい。本作に興味のある人にはこれが良いだろうと思う。
‘Clarity and transparence through reduction’
こういう風に捉えられると思う。「削ぎ落とした先にある明快さと透明さ」これがBarbara Wojirschのゴールである、と明示された上で、本人の発言として以下の言葉が引用されている。
’Being impressed by the sheer quantity of things and message day in and day out makes me want to remove as mush as possible from my designs until only something essential, only a thought or a gesture, remains. Perhaps this longing for emptiness comes from all the thing drumming in our heads today’
意味を取りやすいように意訳するとこうなる。
「一日が始まって終わるまでに、膨大な量の事柄とメッセージにさらされている。私は本質的なものだけ、思索あるいは意思表示としての行為しか残らなくなるまで、デザインからそれらを可能な限り取り除きたくなる。おそらくそうした必要最小限に対する願望は、今日(こんにち)の私たちの頭の中が本質的でない様々な事で埋め尽くされているから、なのかもしれない。」
・本書の魅力
本書の最大の魅力は、現地発のテキスト、そしてアートワークが総括できるカタログの章ではないか、と思っている。ECM 1001のMal Waldron Trio 「Free at Last」(1969) から ECM 1597 John Maneri, Joe Morris, Mat maneri 「Three Men Walking」(1996)までのアートワークを時系列かつオールカラーで見ることができる。
ECM Records (ECMレコード)は音楽は勿論の事ながら、アートワークが話題に上がることの多いレーベルだ。ミニマルなデザイン、タイポグラフィー、詩的かつ美しい写真が添えられた意味ありげなジャケットの数々。作品によっては一般的なジャズという音楽イメージから切り離され、一つの美しい写真作品として、存在するかの様だ。
初期アートワークの方向性については多少のフラつきが見えるが、前述したBarbara WojirschとECMの二人三脚により、方向性が固まり始めたという印象がある。時間の経過とともに、また1980年代のNew Seriesの立ち上げとともにタイポグラフィーを中心としたデザインは、より洗練されていっているように見えるのだ。そうした印象を含めて、ECM Records (ECMレコード)という特異なレーベルの歩みを音楽のみならず、デザインの観点から辿ることのできる本書は貴重な資料であることは間違いない。無論、そうした意味でなくともデザインも楽しむことができる。
音楽好きにとって「ジャケ買い」という行為は、一度は通る道であるように思うのだがいかがだろう。この世界中で、一体何人の人達が、ECM Records (ECMレコード)のアートワークに魅せられ、ジャケ買いをしたのだろうか。ECM Records (ECMレコード)の創始者であるManfred Eicher (マンフレート・アイヒャー)もまた「ジャケ買い」をした経験を持つ、いち音楽好きであったのだろうかと、想像をしてみたりすると少し微笑ましい。彼はそれを美に消化する方向性を選んだのだが。
・メモ
本写真集に差し込まれた引用文がとても印象的だったので、メモする。
alles ist weniger, als es ist, alles ist mehr
Paul Celan (1920-1970)
(P.159)
詩人パウル・ツェランの言葉だ。
You wish to see; Listen.
Hearing is a step towards Vision.
Bernard de Clairvaux (1090-1153)
(P.233)
こちらは12世紀、ランスの神学者ベルナールの言葉だ。
稲岡 邦彌が書いた「ECMの真実」における「巻頭に寄せて」という文章でManfred Eicher (マンフレート・アイヒャー)が同じことを述べている。おそらく座右の銘なのだろう。本書の訳ををお借りするとこうなる。
見ることを欲するなら、まず耳を傾けよ。
傾聴することはヴィジョンへの第一歩である。
さあ、またECMアーティストのCDでも再生しようか。
 ・Catalogue
・Personnel
Lars Müller
Barbara Wojirsch
Dieter Rehm
Peter Rüedi
Peter Kemper
Steve Lake
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