
・Review
1989年に八ヶ岳高原音楽堂でレコーディングされた音源。とても贅沢な企画だ。
なお、ゴルトベルク変奏曲は1972年、クラヴィーア練習曲集第4部として「アリアと種々の演奏」と題する巨大な変奏曲を出版し、これがのちにゴルトベルク変奏曲と呼ばれるようになった。
なぜこのように名前が変わったかというと、当時のドレスデン駐在ロシア大使、カイザーリングが、お抱えチェンバリスト、「ゴルトベルク」に弾かせる曲をバッハに依頼したことに由来する、らしい。一体本当なのだろうか。(ソースはフォルケルの「バッハ伝」(1802)のようだ。)
なお、本作品のレビューについては、奏者であるKeith Jarrett (キース・ジャレット)のインタビューを引用したい。あまりに示唆的であり、含蓄に富んでいるから。
1.自然と音楽の関わりについて
バッハは全音楽を神に捧げた人間であり、その神の音楽を都市の中で見ることはとても難しい。
人間が自然から離れることで問題が起きるのは、科学技術というものにとらわれて分析ばかりを中心に考え、感情やフィーリングというものを失ってしまうことがあります。
バッハを例に取るなら、バッハの中に満ち満ちている情熱について、人が忘れがちになってしまい、数学のように分析されるだけになっていることが多いのです。
2.ゴルトベルク演奏曲を選んだ理由について
この曲を私が選んだというよりは、作品の方が私を選んだということです。
3.バッハを演奏する、解釈することについて
バッハ以前の音楽には二つの種類があり、その一つはダンスのための音楽として身体が関わってくるもの、もう一つは教会の音楽です。ゴルトベルク変奏曲にはその全てがあります。(中略)バッハの演奏家は、このダンスの部分を十分に演奏している人が非常に少なく、どちらかというと頭でっかちになっています。ダンスの部分が失われているのです。どんな音楽でも、頭だけでなく身体も参加する部分が必要なのです。
構造を見せるためにはまずそれを生きたものにしなくてはなりません、なぜこれが美しいのかということを示さねばならないのです。バッハの音楽が美しいのは、バッハが構造を考えていたからではないのです。即興演奏では時々、構造は自然と「表れて来る」ものなのです。バッハの音楽に接するとわかるんですが、バッハはいつも前もって考えていたわけではない。音楽が終わった時に完璧であるためには、いま何が自然かということを考えている場合が多いのです。だから、構造を作っていたのではなく、音楽を作っていたのです。それが自然と構造になっていくのです。
4.最後に
優れた音楽家は聴き手をその作品の中に閉じ込めなければならない、ということは言えます。
全くもって古くて新しいゴルトベルク変奏曲だ。これまでに4人のゴルトベルクを聴き込んだが、また新たな表情を垣間見ることができた。なんという曲なのだ。
・Catalogue
ECM 1395 Keith Jarrett ‘Johann Sebastian Bach: Goldberg Variations’ (1989)
・Track list
1.Aria
2.Variatio 1
3.Variatio 2
4.Variatio 3, Canone all’Unisono
5.Variatio 4
6.Variatio 5
7.Variatio 6, Canone alla Seconda
8.Variatio 7, Al tempo di Giga
9.Variatio 8
10.Variatio 9, Canone alla Terza
11.Variatio 10, Fughetta
12.Variatio 11
13.Variatio 12, Canone alla Quarta
14.Variatio 13
15.Variatio 14
16.Variatio 15, Canone alla Quinta. Andante
17.Variatio 16, Ouverture
18.Variatio 17
19.Variatio 18, Canone alla Sesta
20.Variatio 19
21.Variatio 20
22.Variatio 21, Canone alla Settima
23.Variatio 22, Alla breve
24.Variatio 23
25.Variatio 24, Canone all’Ottava
26.Variatio 25, Adagio
27.Variatio 26
28.Variatio 27, Canone alla Nona
29.Variatio 28
30.Variatio 29
31.Variatio 30, Quodibet
32.Aria da Capo
・Official site
Keith Jarrett https://www.keithjarrett.org
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